‘ビジネス × デザイン’ の世界に出会うための25冊(後編)

Yasuhiro Sasaki
14 min readFeb 20, 2017

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先週の前編に続いて、後編の紹介です。簡単におさらいを。

このリストは、「ビジネスデザイナーのための25冊」のご案内です。

知る → 考える → 作る → 伝える → 届ける → 育てる

デザインプロセスをこの6つに分け、本もこの順番で緩やかに並べています。表の上部は、その分野の世界観を紹介してくれる本。表の下部に行くにつれて、実務・マニュアル本色が濃くなります(下記のリストの番号は上の表に対応しています)。ビジネスデザインに興味を持ち始めた方は、表の上の方からピックアップ頂いた方がいいかもしれません。

13. Good Chart

「図表を美しく作る」というのは非常に重要なことです。人は生物学的に、美しく表現されたものに高い価値を感じます。そして親しみを抱き、積極的に理解しようとします。

ビジネスデザイナーという職種は、ダイヤグラムやグラフを多用することが多い。しかし、そういったものをどうやって美しく、分かりやすく、ストレートに伝達できるか、ということを学べる教材や場はほとんどありません。

この本は、色彩の選択、因果や相関、グルーピングの表現の仕方など、シンプルなビジュアルの例を多用しながら、セオリーと実例を紹介してくれる稀有な教材です。

ところで最近、マッキンゼーのTwitterアカウントをよく見ています。デザイン的観点でも洗練されたダイヤグラムが表現されていてまさにGood Chart。よく参考にさせてもらってます。

14. デザイン・イノベーションの振り子

私が所属するTakramの著作です。

領域横断的な活動を「XとYの融合」と表現することは多いですが、Takramがユニークなのは、それを「XとYの振り子」と表現する点です。相反する2極の間を高速移動するという思考スタイル。

この本では、問いと答え、ものづくりと物語、作ると考える、の3つの「振り子」について詳述されています。本質的、哲学的、詩的な表現が多く、他のデザイン本と一線を画す、独自の切り口で語られています。

15. The Art of Innovation 発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法

もう15年も前の本ですが、全く色褪せないです。

この本を読んで、初めて「デザイン思考」という概念に触れた方も多いのではないでしょうか。プロトタイプやユーザ観察の重要性、アイディア発想の方法など、ビジネスシーンに計り知れない影響を及ぼした本だと思います。

「昔の本だから」などと敬遠せずに是非、手にとって欲しい一冊です。

16. 誰のためのデザイン?

開け方がわからないドア、というものがあります。押せばいいのか、引けばいいのか。モノは、形状や色を通じ「こうして欲しい」というメッセージを発し、その投げ方が下手だと人間は混乱します。

著者のドナルド・ノーマンは、「人間中心設計」を提唱した人です。人間を中心に置き「モノと人とのインタラクションにこそデザインの役割・意義がある」と。あのAppleの人間中心設計のガイドラインも彼の手によるものです。そんな彼のデザインの思想、ヒトに対する眼差しがギュッと詰まったのがこの本です。

個人的には、この本は、アフォーダンスという概念や、認知心理学の深遠な世界の入り口となった、思い入れのある本です。ドン・ノーマンは、認知心理とインタラクション・デザインを組み合わせてフロンティアを切り拓いた人です。そして私は、ビジネスデザインは認知心理と親和性が高いのでは、と思い始めています(この話は脱線すると戻れなくなりそうなので、また別の機会に)。

17. Building Design Strategy

「デザイン × ビジネス」をテーマにさまざまな識者が自分の考えを語るアンソロジー。ある立場やスタイルを肯定したり、否定したり。多様な視点、多様なフレームワークに触れることができます。

18. Different: Escaping the Competitive Herd

Harvard Business Schoolの超人気教授によるマーケティング本。 エベレット・ロジャースのイノベーター理論や、キャズム理論で紹介されている消費者分類(イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ・・・)ではなく、消費財、飲料、自動車などの成熟した市場で、消費者を区分する新たな方法が提示されています。

また、消費者におもねるだけではない、独創的な価値を提供する方法として、リバース(逆張り)ブランド、ブレークアウェイ(型破り)ブランド、ホスタイル(敵対的)ブランド、という3つのブランディングのあり方を提示しています。レッドブル、MINI、Googleなど事例が豊富でとても読み易い。

私は、個人的にこの著者の語り口がとても好きです。日常の世界からニュアンスを汲み上げて、ビジネスの話題に昇華させていくスタイルも素晴らしいです。上質なエッセーのように、枕元に置いて置きたくなるほど。

訳書はこちら。こちらも翻訳が素晴らしいです。

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19. Designing for Growth: A Design Thinking Tool Kit for Managers

1. What is?(問題は何か)2. What if?(どういう可能性があるか 3. What wows?(ユニークで斬新な点あるか)4. What works?(どう成功させるか)

という独自のデザイン思考プロセスを提唱。デザイン思考には、”亜流”のデザインプロセスがいくつかありますが、その亜流の良き実例です。著者の一人はアメリカのビジネススクルールでデザイン思考を長年教えています。

この本では、作る、のみならず、事業の成長まで見据えた形でプロセスが構築されています。ワークショップの運営の仕方や、実務で使えるツールキットなど痒いところに手が届く点の記述が多く、とても参考になります。

20. Ten Types of Innovation: The Discipline of Building Breakthroughs

シカゴのイノベーションファーム・Doblinの設立者であり、私の恩師でもあるLarry Keelyの著書。

・イノベーションは、10の方法(サプライチェーン、ビジネスモデル、エクスペリエンス、ブランド等々)で起こせる。いつまでプロダクトイノベーションやってるんだ。

・イノベーションには方法論がある。学習能力の高いチームさえあれば、天才じゃなくてもイノベーションを起こせる。

というのがキーメッセージ。教科書+事例集のようになっています。私はデザインスクールで、Larry Keelyにも教わっていました。彼は、アップルの租税回避スキームについて講義を垂れ「デザイナーたるものこれくらい知っていろ」と言い放つ。皆ドン引きしていましたが、私は最も影響を受けた授業でした。

こちらも翻訳が出ています。

21. ワイドレンズ―イノベーションを成功に導くエコシステム戦略

「顧客と、提供する企業にとって夢のような製品を出したとしよう。それでも、エコシステム全体で物事を捉えなければ、うまくいくはずない」というのがこの本のキー・メッセージです。そして、ものづくりを軽視し、チープなプロダクトを提供しながら、ビジネス総体として勝負で勝つことは十分可能という、ことを示唆する本です。

「ものづくり軽視」しながら、ビジネスとしてのゲームに勝つ事例として、Kindleを挙げていますが、Dash Buttonも同じ発想ですね。ゲームのルールをメタ的に理解し、プラットフォームを作ったり、そのプラットフォームを効果的に動かすためのルール自体も作ってしまう。

私もこうした「仕組みづくり」はデザイナーと領分だと思っています。その観点で、理論とケーススタディーをまとめた数少ない本です。

22. イノベーションの普及

これは「どうイノベーションを生むか」ではなく、「どうイノベーションを普及させるか」という本です。原著が書かれたのはなんと50年近くも前。イノベーション普及論の古典です。

「キャズム」という有名な本がありますがこの本がオリジナルでしょう。「ボリュームゾーンとつながりをもつ早期採用者の確保が重要」などといった、キャズムにも繋がる主張が、膨大な研究を元に記されています。

現在のようにインターネットのない時代に書かれたため、農業や、宗教などの事例紹介に紙面が多く割かれていますが、イノベーション普及に通底する「構造」は不変なのだ、ということを示唆してくれる大書です。

23. リーン・スタートアップ

「スパゲティを壁に貼り付けて、どの一本が壁に張り付くか見定めようとするようなものだ」

リーン・スタートアップにはこの手の批判がつきものです(ピーター・ティールもリーン批判の急先鋒ですね)。

しかし、絶え間ない改善活動を行う、製品開発ではなく、”顧客”開発を行う、など思想レベルでリーン手法に共鳴することは非常に多いです。

ビジネスデザインは、プロダクトではなく、インパクトを創る領域。プロダクトをどうマーケットに適合させていくか(PMF:Product Market Fit)などを考え、リーン的な迅速なローンチ、確実なグロースを狙っていくには、必須のワザとして習得が必須なポイントだと思います。

24. デザインスプリント

GV(旧Google Ventures)による、計画からユーザテストまでの全デザインプロセスを、一週間という短期間で走り抜ける「デザインスプリント」の実践書です。

GVは自らの考え方、フレームワーク、ツールを積極的に公開していて、どれも非常に参考になります。MediumやTwitterなどで随時、アップデートしているので是非ご覧頂くといいと思います。

25. スタートアップ・マニュアル ベンチャー創業から大企業の新事業立ち上げまで

リーン・スタートアップの実務マニュアル手引書。著者は、シリコンバレーの生き字引でリーン・スタートアップの開祖、スティーブ・ブランク。いつも重厚かつ広範な情報量で圧倒してくれます。この本も狂気かと思うほどの情報量。

リーン的な手法を実践する際は、常に手元に置いておくと、有用なツールをすぐに発見・実行できるのではないかと思います。

以上が、‘ビジネス × デザイン’ の世界に出会うための25冊です。

どれか一冊手にとって頂き、このニッチな世界に興味を持って頂けると幸いです。

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Yasuhiro Sasaki

Founder of Lobsterr https://www.lobsterr.co/. Director, Business Designer at Takram. Opinions are my own. Twitter @yasuhirosasaki