思い出の写真が消えるとしても旅行にいくか? — 顧客”記憶”のデザイン

ダニエル・カーネマン(2002年 ノーベル経済学賞受賞)が提唱したピーク・エンドの法則というものがある(「ピーク“と”エンド」が重要と言っており、「終わりよければ全てよし」とは少し違う)。Wikipediaから引用するとこういう意味だ。

われわれは自分自身の過去の経験を、ほとんど完全にそのピーク(絶頂)時にどうだったか(嬉しかったか悲しかったか)ならびにそれがどう終わったかだけで判定する、という法則である。

カーネマンが「ピーク・エンドの法則」を証明するために行った実験は以下のようなものだ。

A.冷たい水( 14℃)に60秒間手を浸す。

B.冷たい水( 14℃)に90秒間手を浸す。ただし、最後の30秒間は徐々に水温が上昇する。

被験者にもう一度実験するとしたらどちらが良いかと聞くと、Aを選ぶのが自然に思える(体験している「苦痛の総量」はAの方がはるかに小さい)。しかし、被験者の大半はBを選択する。終わり方の記憶が鮮明に残り、それに影響を受けているからだ。

カーネマンによると、ヒトは、「体験する自己(水に手を浸す自分)」と「記憶する自己(それをあとから振り返る自分)」の2つのタイプの自己認識を持っている。そして、その判断や価値観はしばしば相反してしまう。

さらにカーネマンがよく使う簡単な思考実験がある。

皆さんの次の休暇で 休暇の最後になって 全ての写真が削除されるとします 。あるいは、皆さんは記憶喪失の薬を飲まされ、旅行の記憶はゼロになります。それでも その休暇を選ぶでしょうか?”

ほとんどの人がこの休暇に拒否反応を示すだろう。休暇をするという体験自体に差異はない。ただ、それが記憶・記録として残らないことで、その体験自体を価値のないものと錯誤してしまう。

言い換えれば、ヒトは、経験よりも記憶や記録に重きを置くとも言える。

最近は「UX/顧客体験」の重要性が盛んに喧伝されているが、上のピークエンド法則に照らすと、体験だけでなく、ユーザ記憶もあわせて設計する必要が出て来そうだ。

ピーク・エンドの法則を、顧客体験/記憶の設計に反映するならば、全行程に対していい経験を作る必要はない。シンプルに以下の4つに凝縮できるだろう。

最初・最低・最高・最後。

上のWikipediaの引用にあるように、人は過去の経験を「ほとんど完全にそのピーク(絶頂)時にどうだったか(嬉しかったか悲しかったか)ならびにそれがどう終わった」かだけで判定する。「最初」を追加したのは、サービスやプロダクトの第一印象が、そのあとの体験全体の印象に大きな影響を及ぼす(「アンカリング」という)からだ。

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First / 最初:事前の期待値コントロールを下回らないように設計する。第一印象は大事だが、後の「最高」ポイントより上に行かないようコントロールする。

Worst / 最低:どうしても生じてしまう負の体験(待ち行列など)の改善をし、全体の底上げを図る。ギャップを作るためにあえて体験の質を下げることも。ただし、期待値からの差分の絶対値は「最高」部分のハイライトの値よりも大きくなってはいけない(ピークがここにならないように)。

Best / 最高:体験フローの中のハイライト。顧客の期待値を超えるものを提供する。

Last / 最後:体験フローのクロージング。終わりよければ全て良し。最新の注意を払って設計する。小売やレストランで言うと会計や、お見送り。料理や品物への半分の配慮しかされていないところも多い。

顧客体験全体を底上げするのがもちろん理想だ。ただ、時間制約や予算制約がある中で取り組む場合は、この4つに絞って対応するのと効率的な設計ができるだろう。

Written by

Founder of Lobsterr https://www.lobsterr.co/. Director, Business Designer at Takram. Opinions are my own. Twitter @yasuhirosasaki

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