メディア企業が示すD2Cの未来

Yasuhiro Sasaki
5 min readJan 16, 2019

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出版社などのメディア企業がリテールの未来を作るのでは、というこの記事。面白かったので、個人的なメモ・コメントを付記しながらの抄訳です。

New York TimesやGannettといったメディア企業は、コマース部門を持っている。大々的にそうしたビジネスをしているわけではないが、メディア記事で紹介した商品価格の一定比率をアフィリエイトで得るなどし、広告収益や、サブスクリプションフィーに次ぐ収益の柱に育てようとしている。

これは、生活者の観点から見てみると、違う意味を持つ。無数の選択肢にコンテクストを与え、プロダクトと生活者の新しい接点の構築しているのだ。オンラインショップだろうが、リアル店舗だろうが、50種類のシャツから自分にとって最適な1枚を選ぶという状況は悲劇でしかない。

Wirecutterや、Best Reviews、Strategistのようなメディアが運営するリアル店舗は、そうした課題に対するソリューションを提供してくれる。メーカーの表面的な売り文句のウソを暴いたり、よくないものは正直によくない、という姿勢でコンテンツを書き、読者の支持を集めている。

少し視点を変えて、AwayやCasperのようなデジタルネイティブのD2C企業について見てみよう。Benedict Evansが言うように、“rent is the new customer acquisition cost” 。不動産の賃料は、新たなCACだ。会社の規模が大きくなると、オンラインの広告費も上がってくる。売上が一定数を超えると、リアル店舗を持った方が、よりコスト効率もよくなったりする。

これは、Starategistにとって何を意味するかというと(今はオンラインアフィリエイトで細々と稼いでいるだけだが)真剣にコマースに取り組むならば、こうしたリアル店舗の展開も考えないといけない、ということだ。実際、Strategistは、ニューヨークのSOHOの店舗に少なくない金額の投資を行なっている。売上、ブランド、どちらにも寄与する取り組みとなるだろう。

現在、アメリカの個人消費は500兆円。そのうちの10%、50兆円程度がオンラインの消費だ。eコマースの最初の20年間、勝者はアマゾンだった。それは、消費者が欲しいものを安く、早く、便利に届けるという競争だ。

これからは、そういった便利さ、信頼性や、物流などの要素が、コモディティ化してくるはずだ。そして、消費者が価値を感じるポイントは、取引的な要素から体験的な要素に比重がどんどん移ってくるだろう。
それは、消費者がその存在すら知らなかったものを提示し、インスピレーションを与えるようなことだ。次の20年間のオンラインコマースの勝者は、「果たして私は何を買ったらいいだろう?」に対して答えを与えるだろう。

Glossierはビューティ系のブログとして始まり、Awayは自分で雑誌を作っている。しかし、これらのD2C系企業のコンテンツへの執着ぶりには少し疑問が残る。それはあまりスケーラブルではないのだ。
まだSKUが少ないうちはいいが、きちんとした、気の利いた商品の解説を書こうとしたら膨大な時間がかかってしまう。これから商品や事業がどんどん拡大したら、どうするつもりなのだろうか?

これは逆に、Strategistのようなメディア系コマースに大きな機会があることを意味している。こうしたメディア企業は、膨大な商品の中から価値のある商品を見つけ出し、それについて批評を書くことで価値を提供している。それこそが彼らの存在理由だ。
「プロダクトについてのコンテンツを作る」という点においては、Strategistの方がより長けているのだ。

現在、Strategistは年間7千万人のサイト訪問者を抱えている。しかしこの数字自体はあまり問題ではなく、コンテンツのストックの方に大きな価値がある。

例えばそれは「新しいタイプの検索」を可能にする。今私たちがAmazonで買い物をしようとしたら、ブランドや、特定の商品カテゴリーを入力しないと欲しい商品にたどり着けない。Strategistのコンテンツストックは、「姪っ子へのお土産」とか「メーガン妃が結婚式で使ったリップ」などの検索が可能になる。

ここで書いたことは、単に斜陽のメディア企業を、リアル店舗の展開で救う、といった話ではない。メディアを、新しいビジネスモデルによって変革しようという、一つの野心的な実験だ。New York Magazineが行なっているのは、次のメディア企業が将来どう生き残るかについての一つの解を示そうとしている。

メディア化するプロダクトブランド。プロダクトブランド化するメディア。ネットとリアルの垣根も自由に行き来しつつ、この2つは今後、交差しながら新しいビジネスモデルを生んでいくだろう。

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Yasuhiro Sasaki

Founder of Lobsterr https://www.lobsterr.co/. Director, Business Designer at Takram. Opinions are my own. Twitter @yasuhirosasaki