新しい家族のかたち

Yasuhiro Sasaki
6 min readJul 21, 2019

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Lobsterrからの転載です。

アメリカや日本など主要な先進国の間で、独身の成人の数がかつてないほど多くなっている。晩婚化が進んでいるということだけでなく、生涯独身の人も増えている。ピュー・リサーチのレポートでは、50歳で独身の人のうち、4人に1人は一生結婚せずに終わるだろうとしている。離婚の数も増え、再婚への意欲も低い。ユーロモニターの調査によると、グローバルな独身世帯数は1980〜2011年の間に1.2億世帯から2.8億世帯に増え、2020年には3.3億世帯に増えるとされる。人口増加のペースをはるかに上回る。

こうした流れに警鐘を鳴らす人がいるのはわかる。日本でも男女は早く結婚すべき、子どもをつくるべきと言う人がまだまだ多数いる。そしてそうした意見が「独身であることがスティグマ、不名誉である」という風潮をつくってしまう。独身は安定性に欠け、自己中心的である、というステレオタイプもある。周囲から孤独で、さみしい人と思われ、なんと早死にするという都市伝説すらある。

とある社会学の実験では、ほぼ同一の職業・学歴・性格などを書き記した複数人のプロフィール欄のうち、既婚・独身だけプロフィールを変えて被験者にその人の性格を判断してもらった。被験者は、既婚者と書かれている人は「優しく、愛情に満ちている」、独身者は「孤独で自己中心的」と判断したという。こうした論調は、フランスの社会学者エミール・デュルケームにまで遡ることができるかもしれない。彼は、結婚こそが人々を社会に結びつけ、一方で独身の人は社会のサポートや帰属感がないため疎外されてしまうとした。

しかし、長期にわたるリサーチや統計が指し示しているのは、独身の増加は、社会のレベルでも個人のレベルでも祝福すべきことということだ。しかも、独身の増加は、都市、街、コミュニティ、家族の意味・範囲を再定義する機会をも与えてくる。

近代以降、コミュニティは核家族の集積として組織化されてきた。しかしライフスタイルやワークスタイルの変化に伴い、こうしたコミュニティは機能不全に陥りつつある。家族同士は孤立化し過ぎており、職場からも離れている。都市のマンションでは隣の人との交流もない。職や教育機会を求めて上京してきた世代には、長年続く近所付き合いもない。1974年以来続いている調査では、アメリカ人は、かつてないほど近所の人との関わりが少なくなっているという。それは日本でもあまり変わらないだろう。

しかし、こうしたコミュニティの崩壊というトレンドに歯止めをかけているのが、独身の人たちなのだ。2,700名もの50歳以下の独身者を6年間トラッキングした調査では、友人や隣人が困っているときに励まし、助け、ともに過ごすことが多いのは独身の人の方だ。独身者の方が、両親や兄弟を訪問し、サポートし、アドバイスすることが多い。市民グループや公共イベントにも積極的に参加する。ボランティアへの参加率も高い。独身で暮らす人こそが、都市の潤滑油となる。彼らの存在が、多様な社会やネットワークづくりを後押ししている。

人間は、交友関係が広い方が人生の満足度が高い。結婚している人は、その家族を人生の中心に据える。結婚後、夫婦の交友関係が狭まってしまう傾向にある。ただ夫婦で寄り添っているだけのカップルはメンタルヘルスのスコアが低い。逆に、独身の人々は多様な社会的ネットワークを形成する。6カ国を対象にした調査(フィンランド、オランダ、スペイン、イギリス、アメリカ、オーストラリア)では、オーストラリア以外の5カ国で、生涯未婚の高齢の女性の方が、既婚の女性に比べてより広範なネットワークをもっていたという。彼女たちの方が、依存先を分散しながら、より軽やかにしなやかに社会と向き合っていく。

また、既婚の人の間でも伝統的な家族の枠組みを拡張・変革しうるような流れも出てきている。親友や離婚後のパートナーも含みうる、「新しい家族像」のようなものをつくっている人も多い。今後、プライバシーと独立性に配慮がなされた複数世代の家族からなる世帯や、友人や気の合うタイプの夫婦などで集まって暮らす、という新しい家族のかたちが生まれてくるだろう。ロマンス抜きで、子育てのためだけにパートナーを探す人も増えてきている。シングルマザー同士で集まる「CoAbode」という住居もある。

また、最近増えているのが「LAT(Living Apart Together)」、すなわち自分らしい生活とリズムを求めて、あえてパートナーと別々の家で暮らすスタイルだ。夫婦であろうが、別に一緒に住む必要はない。お互いの生活のリズムを保ち、好きなときに友人を招き、休みたいときには、ひとりでくつろぐことができる。わたしの友だちも何人かはLATをしている。軽やかで良い。これからもっと増えていくだろう。

ドイツの社会学者ウリッヒ・ベックは、「結婚はDIYキットと化している」と嘆く。結婚したからといって、すべてを世帯のなかだけで行う必要はない。家事も、子育ても、社会と協調しながら行っていけばいい。

独身だろうが、結婚していようが、従来の概念にとらわれずにライフスタイルを追求する人が、新しいタイプのカルチャーをつくっていく。伝統的家族像の”伝統”には、たいした歴史もない。大戦前に国家が管理しやすい、という観点でつくられた制度も多い。せいぜい80年程度の歴史でしかない。また「理想的家族像」は誰かのつくったキャンペーンや幻想だったりする。広告に出てくるような、夫婦2人に子ども2人、料理をしながら夫の帰りを待つ妻、というステレオタイプなシーンに対して嫌悪感を覚える人も増えてきている。イギリスでは、そうした広告表現が禁止されたばかりだ。

20世紀、人々は核家族という枠組みに囚われて生きてきた。そのスタイルのもとでは、家族やパートナーを中心に据えながら、ソーシャルライフや人間関係を構築する。イギリスの社会学者、リズ・スペンサーとレイ・ポールはこれを「パートナーをベースにした個人的コミュニティ」と呼ぶ。しかし、21世紀は、もっと流動的で、家族以外の人ともゆるいつながりを多数もつ、より適応的なスタイルが新しい家族像になるだろう。

誰と結婚してもいいし、結婚しなくても、子どもがいてもいなくてもいい。血の繋がっていない子どもと一緒にいてもいい。どれもクールで、ユニークで、尊敬できるスタイルだ。共同体に生きる個人として、われわれは自分たちが住みたいコミュニティの在り方をデザインする自由、そして責任がある。

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Yasuhiro Sasaki

Founder of Lobsterr https://www.lobsterr.co/. Director, Business Designer at Takram. Opinions are my own. Twitter @yasuhirosasaki